日本社会の変化に適応した看護教育

 

―【看】・【護】・【理】―

 

 

王麗華(大東文化大学スポーツ・健康科学部看護学科)

 

「研究目的」

 世界一の長寿国で少子高齢化がすすむ日本において,看護職の活躍の場も,病院から介護施設および居宅ケアへ拡大された。日本の看護師教育綱領「カリキュラム」はつねに社会的背景とニーズに応じて改正を重ね,今日では地域・在宅で対応できる実践能力を看護師教育の重要課題にしている。そこで本論では、日本社会の変化に適応した看護教育内容について考察する。

「研究方法」

日本の看護教育カリキュラムを概観し、社会の変遷との関係を整理した。日本における近代的看護婦養成教育は,1886年に有志共立東京病院看護婦養成所でスタートした。しかし、医師主導の看護教育が長らく続き,教育カリキュラムの全国的統一は図られないまま看護婦の養成が運営母体独自に進められてきた。

【看】―医学的知識を中心にとした看護の時代―

 1948年に「保健婦助産婦看護婦法」が施行され,1951年、それまでは各学校独自であった教育内容もカリキュラムとして統一された。当時の日本は医療機器と新薬の開発など医療の高度化に向かっていた時期であり、病院で最先端の医療を受けるという人々のニーズに応えられる看護教育が目標であった。医科学概論,解剖生理,薬理,細菌学,化学,精神衛生,統計,栄養,看護学など、医学的知識を中心に看護方法と実習の学修を目指したものである。その後、1990年までに,基礎科目では看護体系を看護学総論,成人看護学,小児看護学,母性看護学という4つの基本に整備された。高度医療に対応する看護人材の育成が重要課題であり、看護の視点も最先端病院で高度医療技術にて患者を【看る】というものであった。

【護】―『全人的ケア』を中心にとした看護―

 1980年代の日本は、社会の高齢化が進むに連れて、老衰や慢性期患者と「病院死」が増加し,看護職は患者の「生活と医療」に深く関わるようになってきた。生命を救急するための医療から,慢性疾患・疾病を抱えながら生活を支える護り医療への変換が芽生えた。それに伴って、看護教育もケア対象の「生きる力」を護り支えるような視点に移りつつあった。1990年には『全人的援助』に関する教養と情報の学修を目的とした老人看護学科目が創設され、1997年に在宅看護論も加わり、在宅への支援体制の確立を目指すカリキュラムとなった。

【理】―実践の科学的ケアの普及―

 1997年以降の看護教育は、養成課程も従来の専門学校中心から,4年生大学教育への方向転換に力を注いでいる。日本の看護学士教育について実践を科学的に分析する力の育成にしている。日常の看護実践の意味や効果を問い,理論的に説明できるようにしている

「考察」 

 看護教育は日本の社会に合わせて改善されている。病気・治療法を知り、身体に働きかける看護技術重視を進めてきている。高齢社会の進行により、疾病と療養生活を両立していくことが求められている時代に患者の生活と健康を【護】りながら、日常生活行動を支援する看護技術を教育に取り入れてきた。特に2000年以来、療養など多様なニーズに応えるため、看護は医療と福祉両方に関わりつつ生活の支援を視野に入れた教育を展開している。近年看護教育が目指すのは,看護対象の個別性を意識した看護援助にある。大学教育では看護実践を分析する力を育成し、看護学に加えて,文化看護、医療人類学、伝統医療、国際看護など関係諸科学の知識を取り入れつつ、看護実践の分析の基盤となる看護教育としての【理】論の追及を看護教育に取り入れたきたことが示唆されている。